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いこうよ

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Summary

夏の終わり、夕暮れの帰り道。 二人は静かな学校の道を並んで歩きながら、まだ見えない未来について語り合う。 いつか別々の道を歩く日が来るかもしれない。それでも、今この瞬間に一緒に歩いていることを大切にしたい。 不安や迷いを抱えながらも、一歩ずつ前へ進んでいく。 ――いつか振り返ったとき、この何気ない日々が「幸せだった」と思えるように。

Genre
Drama
Author
Sam
Status
Complete
Chapters
1
Rating
n/a
Age Rating
13+

いこうよ

八月の終わり。

夏はまだ終わっていないはずなのに、夕方になると、どこか秋の気配を感じるようになっていた。

校舎を出ると、太陽はゆっくりと西へ傾き、長い影が地面へ伸びていた。

校庭へ続く道には、六角形のタイルが敷き詰められている。赤、灰色、そして夕日に照らされて淡い金色に見えるタイル。その上には、木々の葉が落とした影が揺れていた。

風が吹くたびに、葉の隙間から差し込む光が形を変える。

まるで、時間そのものが足元を流れているようだった。

「……もう、こんな時間なんだ」

隣を歩いていた彼女が、小さく呟いた。

「本当だ。気づかなかった」

「今日、何時間くらい学校にいたんだろうね」

「たぶん、考えないほうがいい」

「ふふっ。確かに」

二人は笑った。

それから、しばらく何も話さなかった。

気まずいわけではない。

むしろ、何も話さなくても一緒にいられることが、二人にとっては心地よかった。

遠くから運動部の声が聞こえる。

校舎の窓には夕日が反射し、オレンジ色に輝いている。

いつもなら騒がしい学校も、この時間になると少しだけ静かだった。

彼は前を向いたまま、ふと思った。

――この道を歩くのも、あと何回なんだろう。

学校生活は、ずっと続くものだと思っていた。

朝になれば学校へ行き、授業を受け、休み時間になれば友達と話す。

放課後になれば、この道を歩いて帰る。

そんな毎日が、当たり前のように続いていくと思っていた。

けれど、そうではなかった。

気づかないうちに、一日、一週間、一か月と時間は過ぎていく。

そして、いつか必ず終わりが来る。

「ねえ」

彼女が突然、声をかけた。

「なに?」

「卒業したら、どうする?」

彼は少し考えた。

「まだ決めてない」

「そっか」

「君は?」

彼女は前を見つめた。

夕日に照らされた道の先には、校門が見えている。

「私も、まだわからない」

そう言って、彼女は少し笑った。

「でも……」

「でも?」

「このまま何も決めないのは、ちょっと怖いかも」

彼は黙って彼女の言葉を聞いていた。

未来という言葉は、不思議だった。

まだ存在していないのに、どうしてこんなにも人を不安にさせるのだろう。

何をするのか。

どこへ行くのか。

誰と出会うのか。

そして、今隣にいる人と、この先も一緒にいられるのか。

誰にも答えはわからない。

だからこそ、未来は怖い。

けれど――。

彼は足元を見た。

二人の影が、夕日に向かって長く伸びている。

少し離れていた二つの影は、歩くたびに近づいたり、離れたりしながら、それでも同じ方向へ進んでいた。

「……でもさ」

彼が言った。

「うん?」

「わからないなら、歩きながら考えればいいんじゃない?」

彼女は少し驚いた顔をした。

「歩きながら?」

「うん」

彼は前を向いた。

「立ち止まって考えても、答えが出ないことってあるだろ」

「……あるね」

「だったら、一歩ずつ進みながら考えればいい」

彼女はしばらく黙っていた。

そして、小さく笑った。

「なんか、君らしいね」

「そう?」

「うん。すごく単純」

「悪かったな」

「褒めてるんだよ」

二人はまた笑った。

その瞬間、風が吹いた。

木々の葉が揺れ、いくつかの葉が二人の前に落ちてくる。

彼女はその中から一枚の葉を拾った。

「ねえ」

「ん?」

「もし、未来で今日のことを思い出したら……」

彼女は葉を見つめながら言った。

「どんなふうに思うのかな」

彼はすぐには答えなかった。

今日という日は、きっと特別な日ではない。

大きな出来事があったわけでもない。

試験に合格したわけでも、何かを成し遂げたわけでもない。

ただ学校に来て、授業を受けて、放課後になって、二人でこの道を歩いている。

それだけの一日だ。

けれど、そんな何気ない一日こそ、いつか大切な記憶になるのかもしれない。

「たぶん……」

彼はゆっくりと言った。

「懐かしいって思うんじゃないかな」

「それだけ?」

「うん」

「なんか普通だね」

「じゃあ、君は?」

彼女は少し考えた。

「私は……」

一瞬だけ、彼女の歩く速度が遅くなった。

「楽しかったって思いたい」

彼は彼女を見る。

彼女は前を向いたまま、続けた。

「今は普通の毎日でも、いつか振り返ったときに、『あの頃は幸せだったな』って思えたらいいなって」

その言葉を聞いて、彼は何も言えなくなった。

夕日が二人の横顔を照らしている。

風が吹いて、彼女の髪が揺れた。

彼は思った。

未来のことは、誰にもわからない。

明日、何が起こるのかさえわからない。

それでも、人は前へ進まなければならない。

怖くても。

迷っても。

時には間違えても。

一歩ずつ。

少しずつ。

自分の足で歩いていくしかない。

「ねえ」

彼女がまた呼んだ。

「今度は何?」

「明日も一緒に帰ろうよ」

彼は少しだけ笑った。

「いいよ」

「明後日も?」

「たぶん」

「たぶんって何?」

「予定が入るかもしれないだろ」

「じゃあ、予定がなかったら?」

「一緒に帰る」

「約束?」

彼は少しだけ考えてから答えた。

「約束」

彼女は嬉しそうに笑った。

二人は再び歩き始めた。

校門はもう目の前だった。

その先には、それぞれの家へ続く別々の道がある。

今日も、そこで別れる。

明日になれば、また学校で会う。

そして、いつか卒業の日が来る。

その日が来れば、二人は今までとは違う道を歩くことになるだろう。

同じ場所にいるとは限らない。

同じ時間を過ごせるとも限らない。

それでも、今日という一日が消えることはない。

この道を歩いたこと。

夕日を見たこと。

くだらない話をしたこと。

未来について悩んだこと。

そして、「明日も一緒に帰ろう」と約束したこと。

それらはきっと、二人の中に残り続ける。

校門を出る直前、彼女が振り返った。

「ねえ」

「ん?」

「未来って、遠いと思ってたけど……」

彼女は夕日に照らされた道を見つめる。

「もしかしたら、今歩いてるこの一歩一歩が、未来なのかもしれないね」

彼はその言葉を聞いて、少しだけ空を見上げた。

夕焼けは、いつの間にか淡い紫色へ変わり始めていた。

「……そうかもね」

二人はそれ以上、何も言わなかった。

ただ、また歩き始めた。

一歩。

また一歩。

ゆっくりと。

確かな足取りで。

どこへ続いているのか、まだわからない道を。

それでも二人は歩いていく。

いつか振り返ったときに、

「あの日、歩いていてよかった」

そう思えるように。

そして――

どんな未来が待っていたとしても。

一歩ずつ。

君と一緒に。

未来へ。

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