舞台裏
授賞式にて、「Ghost General」は今回もまた非の打ち所のないパフォーマンスを披露し、会場のファンだけでなく、デジタルプラットフォームを通じて視聴する世界中のオーディエンスを魅了した。会場は熱気で満ちあふれ、彼らへの歓声と互いを思いやる温かな空気がステージの隅々まで行き渡っていた。
しかし、その二日間の公演中、グループのファンたちは、可愛らしく愛くるしいリーダーのオメガの様子が少し……いや、かなり……。
「妊娠しているのでは?」と気づき始めていた。
彼らは知っている。その愛らしい金髪のオメガが、グループの最年長であるノルウェーン・ゲージの番(つがい)であることを。ノルウェーンはイベント中、自分の愛しい恋人に視線を向ける他のアルファたちを威嚇するように睨みつけていた。だが、それも無理はない。彼から漂うイチゴのショートケーキのような甘いフェロモンは、あまりにも抗いがたいほどに魅惑的だったのだから。
さらに、彼が羽織っていた大きなコートは、かえって群衆の中でひときわ目を引いた。ステージ上で時折見せる動きの端々に、その膨らみは隠しきれず、二人が「おめでた」であることを世界に証明してしまった。
アルティ・ポルティエのお腹は、まだそれほど大きくはなかった。今はまだ、かすかに膨らみ始めたばかりだ。ファンの間では、妊娠初期のためリスクは少ないだろうと推測する声もあれば、彼の健康を案じて「妊娠に気づきにくいタイプのオメガなのでは?」と心配する声もあがっていた。幸い、アルティ本人がX(旧Twitter)とInstagramに愛らしいメッセージを投稿したことで、彼を熱狂的に愛するファンたちの不安はすぐに鎮まった。何しろ彼は、同族であるオメガさえもため息をつかせるほどの存在なのだから。
SNSには、止まることのないメッセージの嵐が届いていた。
「受賞おめでとう!本当によかった!」
「Ghost Generalのダンス、今日も最高に輝いてたよ!」
「もう誰に恋すればいいのか分からない」
「その衣装、もはや神々しいレベル」
「拝む場所はどこですか!?」
「アルティの妊娠発表はいつ公式にするの?」
今、ホテルの一室でシャワーを浴び、着替えを済ませてベッドの上で小さな巣(ネスト)を作っていたアルティは、最後のメッセージを読んで小さな唇を「O」の形にして丸くした。
ファンたちはもう、自分のお腹に気づいていたのか。さすがと言うべきか、隠しきれるはずもなかった。
昨日、ホテルへ戻る道中でのノルウェーンの過保護な振る舞いの理由も、これで納得がいった。今のアルティは、あの情熱的なアルファの手によって、部屋から一歩も出られないほどに溺愛され、敏感にさせられているのだから。
金髪のオメガは、ノルウェーンの鼻先が頬をくすぐる感触に、思わず片目を閉じた。そのあまりの愛おしさに、危うく眼鏡が落ちそうになるほどだ。視線を向けると、グループの年下たちはそれぞれのスマートフォンに夢中で、周囲の気配など気にも留めていない様子だった。その隙を突くように、ノルウェーンはオメガの顔中に休むことなく小さなキスを落とし始めた。
オメガは困惑して首を傾げる。エメラルド色の瞳に宿る熱と、その唇に浮かぶ妖艶な笑みの意味が測りかねるのだ。それどころか、ノルウェーンの黒髪の隙間から覗く褐色の肌が、ズボンの布越しにオメガの太ももをゆっくりと撫で下ろしていくのを感じ、頭の中はさらに混乱した。
このアルファが何を考えているのか、知りたい。
ロックバンドの年間コンペティションでステージを終えてからというもの、ノルウェーンは彼を片時も離そうとしなかった。イザンやキーランの隣に座る隙さえ与えず、片手はしっかりと腰を抱き寄せ、もう片方の手は彼の腹部を愛おしそうに、そして独占欲を滲ませて撫で回していた。
アルティは、彼に膝枕をされて眠りに落ちたかった。不思議と強まったアルファの香りが、今の彼には鎮静剤のように作用していたからだ。ファンたちが彼らのいちゃつきに気づいたのは、おそらくアルティがノルウェーンの肩に頭を預け、甘やかされていたあの瞬間だったのだろう。
「……ウィーン?」
ノルウェーンの手が、計算された優しさで腹部に添えられた瞬間、アルティは小さく呟いた。
「俺たちの仔猫ちゃん、今日は大人しくしてたか? ベイビー」
「え……?」
不意打ちの問いかけに、アルティは目を丸くした。唐突な質問だったが、抗う気は起きない。あれほど多くの人々に囲まれていたのだから、この褐色の肌をした恋人は、胎児に異変がないか心配していたのかもしれない。
「もちろんだよ。……知ってるでしょ、すごく大人しい子なんだから」
ノルウェーンは頷くと、そのまま唇を重ねてきた。単なる甘い接触だと思っていたアルティだったが、それは間違いだった。逃げ出す間も与えず、ノルウェーンは彼の口を食い破らんばかりの勢いで深追いしてくる。その手が、彼に触れることへの遠慮を捨て、オメガの血を熱く滾らせるような煽情的な動きを見せた。
「ちょっ、……やめてよ、みんなが見てる……」
舌打ちをして眉をひそめ、かろうじて漏れた声は糸のように細い。頬を赤らめて抗議するアルティに、黒髪のアルファはあざ笑うような視線を向ける。
「関係ないさ」
ノルウェーンは意に介さず言い放った。
「彼らが見てるわけでも、邪魔してくるわけでもない」
アルティの最大の懸念はキーランだった。もし末っ子の彼に、自分の「あられもない」姿がバレたら、冷やかしは避けられないだろう。トマトのように顔を真っ赤にする未来が目に浮かぶ。だが、キーランはYouTubeのバスケットボールの試合に夢中で、現実世界に戻ってくる気配はなかった。
アルファが首筋に落とす湿ったキスの感触に、オメガの心臓は早鐘を打った。唇が肌から離れるたびに小さく鳴る音さえ、オメガを翻弄し、叫び声を上げさせようとする。
アルティは恥ずかしさでいっぱいになり、この状況をなんとか止めようとした。しかし、ノルウェーンの膝の上に乗せられたその時、すぐそばでマイケルが横目で見ていることに気づき、背筋が凍りついた。慌てて彼に甘い笑みを向けて注意を逸らす。マイケルは呆れたように肩をすくめると、エアポッズを装着し、隣で興味なさそうに疲れ果てていたイザンを肩に預けて目を閉じた。
あの鋭いアルファなら、自分の背後にいる「好色な獣」の企みに気づいているはずだ。そう思うと恥ずかしさで消えてしまいそうになる。
「何がそんなに怖いんだ? 愛しい人」
ウィーンは、オメガの敏感な耳元で、確信犯的な声を低く響かせた。
「あとどれくらい? あとどれくらい? あとどれくらいなの?」
金髪のオメガは心の中で何度も繰り返した。ノルウェーンがわざとらしく自分の臀部に押し当ててくる、あの太く硬い隆起を必死に隠そうと、彼は静かに、しかし必死に身じろぎしていた。
呪わしいことに、揺れる車内の動きはまるで彼を拷問するために設計されているかのようだ。車が揺れるたびに、甘美な刺激がアルティを襲う。彼は声を殺すために唇を噛み締めたが、その様子を見た黒髪の男は、ただ不敵な笑みを深めるだけだった。
こいつ、殺してやる。
どうやらアルティの思考を読み取ったらしいノルウェーンは、自身の膝の上でパートナーの体勢を整え直した。アルティを正面に向かせ、背中から倒れないように、そして逃げ出せないように、その細い腰を力強く両腕で抱きしめる。
もっとも、アルティをその体勢で上から眺めるのも悪くない、とノルウェーンは考えていたが。
その思考が顔に出たのか、ノルウェーンは唇を舐めた。好奇心と、かすかな愛おしさが混じった大きな瞳で見つめられ、彼はすっかり魅了されていたのだ。さっきまでの年下らしい小さな拗ねた態度も、こうして互いを見つめ合えば、嘘のように霧散してしまう。
金髪の小さな鼻が、無意識のうちにひくりと動いた。アルティはアルファの首筋に顔を寄せ、その安らぎの香りを肺いっぱいに吸い込む。喉の奥からは、満足げな喉鳴り(ゴロゴロという音)が漏れた。
長い道のりの間、二人は互いの香りを嗅ぎ合い、この密着を楽しんでいた。オメガの愛らしい喉鳴りを耳にし、妊娠中特有の甘く濃密なフェロモンに、ノルウェーン自身も頭がくらくらしそうなほど酔いしれていた。
もっと、彼が欲しい。
「どうした、愛しい人?」
アルティがふと顔を離した瞬間、黒髪の男が問いかけた。先ほど首筋に落とされた小さな舌の感触が、アルティの背筋にゾクリとした戦慄を走らせていた。
「ノ……ノルウェーン」
アルティは目を見開いて彼を見つめた。
アルファは眉をひそめた。その声色の変化に警戒し、何かあったのかと即座に騒ぎ立てる準備を整える。だが、パートナーの頬に浮かぶ愛くるしい赤らみを目にした瞬間、彼の態度は一変した。そして次の瞬間、彼は事態を理解した。あるいは、自分の手で直に「問題」を感じ取ったのだ。
アルティの体は、車内という密室の中で自然と準備を始めていた。母乳が滲み、そして下腹部は潤いに満ちている。後者はすでにズボンの布地を透過し、それを支えていたアルファの指先までをも湿らせていた。
「ウィ、ウィーン……っ」
アルティは恥ずかしさのあまり、その顔をノルウェーンの胸元に隠した。抗議の言葉や文句を口にしようとするが、その声は甘く震えるだけで、その場から逃げ出したいという意志の表れに過ぎない。
イチゴのショートケーキのような甘い香りが車内に充満し、周囲の視線を否応なしに引き寄せていく。運転手でさえ、その異変を察したのか、バックミラー越しに怪訝そうな視線を投げかけていた。
「……ホルモンのせいだな」
その言葉を聞いた瞬間、恥ずかしさの限界に達したオメガから、強烈な拳がノルウェーンの胸に叩き込まれた。
「いっ!」
ノルウェーンは、大げさに悲鳴を上げた。
ノルウェーンはオメガを背後から抱きしめ、首筋と肩の間に顔を埋めるようにしてホテルへと帰還した。アルティは眼鏡をかけ直すと、首を傾げてうっとりとため息をつく。これでもっと彼に近づき、全身でその香りを纏うことができるからだ。
グループの年下たちは、気を利かせて先に食事の注文へ向かった。二人が共有する部屋には、二人だけで入れるように。
部屋に入るなり、アルティは安堵の息を漏らし、肌と同じ色のテープを剥がした。激務が続いたここ数日間、彼はこのテープで、ノルウェーンが特別に刻み込んだ、あの赤く染まった血の滲むような大きな刻印を隠していたのだ。彼が「秘策」あるいは「注意をそらすための道具」と呼ぶこのテープのおかげで、ファンたちが身体のその部分に目を留めることはなかった。
SNSでは「なぜまだマーク(刻印)されていないのか」と憶測が飛び交っていたが、二人にとってそれは、夜ごとに誇らしく刻まれる、愛と絆の証そのものだった。
初めてそれを刻まれた時、死ぬほど痛かったことは認めざるを得ない。ノルウェーンの顎の力は強すぎたし、翌朝に届いたファンたちの悲鳴にも似た心配の声は、あの夜の出来事がどれほど周囲にバレていたかの証拠だった。
妊娠については、何の心配もしていなかった。自分たちを批判する者たちがいることは分かっていたが、多くのファンが二人を守ってくれると信じている。それに、事務所や友人、家族も味方だ。
今さら、怖がるようなことは何もない。
確かに、マネージャーに報告した日は、小さな子供のように泣きじゃくり、怒られるのが怖くてノルウェーンの背後に隠れたものだ。だが、そんな時でも彼は常に側にいて、自分と子供のために先頭に立ってくれた。激怒するどころか、ただ秩序を保とうとしていたあのベータのマネージャーを、見事に落ち着かせてくれたのだ。
バスルームから出ると、母乳の溢れも、車内で感じたあの過剰なまでの情欲も、ようやく落ち着いていた。アルティは、不意に背後から抱きすくめられて小さな悲鳴を上げた。
もう深夜だ。ひどく疲れていて、ベッドの誘惑は抗いがたいものがある。
「……ウィーン?」
ノルウェーンは答えない。その代わり、車内でしたように首筋に鼻先を押し当て、一心に嗅ぎ回っている。彼の獣の部分が顔を覗かせていた。頭上には狼の耳がぴょこりと立ち、腰のあたりからは尾がしきりに揺れている。
「ウィーン、どうしたの? 昨日からずっと甘えん坊だね」
アルティは頬を膨らませて、彼の胸元を撫でた。
「ストレスかな?」
そう言って、自身の小さな顔を彼の黒髪の頭にすり寄せる。
「寝ようよ、ウィーン」
アルティの狼は、褐色の肌のアルファから放たれる香りに包まれて、幸せそうに喉を鳴らしていた。彼はあえて香りを濃く漂わせ、自分以外のことに集中できないようにしている。
典型的な自己愛の強いナルシストだ。このアルファは、ただひたすらに自分だけを見ていてほしいのだ。
高い体温に包まれてうとうとし始めた時、アルティは再びビクッと体を跳ねさせた。質問への返事の代わりに、ノルウェーンがアルティの臀部を叩いたからだ。彼はそのまま片手でそこを意のままに揉みしだき、もう片方の手で腰を強く締め上げた。
次の瞬間、唇が強引に奪われた。さっきまでとは比べ物にならない強さで。数秒だけ与えられた呼吸の間、アルティは小さく喘ぐことしかできなかった。
アルティの足は震え、腹部をぶつけないよう、眼鏡の置かれたナイトテーブルに必死にしがみついた。ノルウェーンの手が左右から臀部を押し広げ、その熱い舌先が、甘く疼く秘所に直接触れた。彼は、抵抗することすら忘れ、ただその熱を受け入れた。
アルファの舌は、アルティの内部をまるで獲物を探すように探索する。その決断的な動きに、アルティは両手で唇を覆い、喉の奥から漏れそうになる高い喘ぎ声をかろうじて押し殺した。
これは初めてのことだ。
指や、彼自身のあそこ以外でここを触られるのは、今日が初めてだった。
神様、気を失ってしまいそうだ。あまりにも、あまりにも気持ちいい。
「……ウィーンッ!」
瞳を潤ませ、アルティは鋭い悲鳴を上げた。ノルウェーンの右手が、唯一残された衣服であるシャツの下に滑り込み、硬く勃起した乳首をいじり始めたからだ。
「ウ、ウィーン……っ」
アルティは不満げに口を尖らせてすすり泣いた。アルファの荒い吐息が耳元にかかるたびに、体は小さく跳ねる。
「ずいぶんと濡れているな、可愛いオメガ」
驚きで唇が離れるが、それも束の間。腹の奥、赤子を宿す場所の近くに、得体の知れない疼きが走り出した。いや、正確にはそこからではないのかもしれない。だが、このアルファの獣の声を耳にするだけで、体が抗いようもなく従順になり、自然と熱を帯び、過剰なほどに濡れ出しているのがわかる。
ダメだ、また母乳が出ている。
興奮するとこうなるなんて、普通じゃない、よね!?
胸のそれは、子供が生まれてから出るはずのものなのに。
「……やっと、コントロールできたところだったのに」
アルティは拗ねたように不満を漏らし、全身を貫く痙攣に背中を反らせた。
ノルウェーンはその顔をアルティの金髪に埋め、自身の「小さな番」から放たれる濃密な香りを肺いっぱいに吸い込む。そしてゆっくりと、愛してやまないその深淵へと侵入を開始した。アルティは黒髪のアルファの腕に強くしがみつく。下半身が押し広げられる異物感と、満たされる充足感に震えながら、下唇を強く噛み締めて目を固く閉じた。
「……俺の、美しいオメガ」
ノルウェーンはかすれた声でそう囁いた。
「も、もうやめたほうがいいかも……。今の状態で、こんなことしていいのか……」
アルティは少し不安げに呟き、ノルウェーンの小さな突き上げに短く喘いだ。
「こ、これで合ってるの? お医者さんにもまだ聞いてないのに」
金髪のオメガは、ゆっくりと、しかし確実に深さを増していく突き上げを受けながら、アルファの胸に体を預けた。
「……ずいぶん、久しぶりだったから」
「大丈夫だ。俺がどうすればいいか一番よく分かっている」
「ほ、本当? ……ねえ」
アルティは別の短い喘ぎ声を上げた。ノルウェーンは彼をナイトテーブルから引き剥がし、赤子の宿る腹部を傷つけないよう、部屋の壁へと押し付ける。
「アルファ……体が変化してるんだ。赤ちゃんを受け入れるために準備をしていて、だから前よりもずっと敏感で……。もっと気をつけなきゃいけないはずなのに、それでも、わかってるのに、どうしてか……」
アルティは息を呑んだ。自分を見つめるノルウェーンの深い暗い瞳に、自分がひどく小さな存在に感じられる。
「……体が、ひどく熱いの」
唇がわずかに触れ合っただけで、金髪のオメガはさらに蜜を溢れさせた。パートナーの魅力に抗えず、彼は自らキスを深め、黒髪の男を麻薬のように酔わせていく。
アルティはキスが好きだ。けれど、三人の幸福を考えれば、あと数時間後に控えた公務のことを思えば、これ以上深入りするのは危険だということも分かっている。
それなのに、こんなにも求められている。
このアルファを、今すぐ全部受け入れたい。
おかしな話だ。まるで、二人同時に「発情期(ヒート)」が暴走しているみたいだ。
……待って。
「あ、あなた……今、その……っ!」
彼がそう指摘しようとした言葉は、ノルウェーンの強引な唇によって遮られた。
羞恥に染まったオメガは、部屋のドアが短くノックされた瞬間、冷や汗を流した。
(聖なる月の女神よ、どうかドアに鍵がかかっていて……!)
可哀想な金髪の小柄な彼は、心の中で叫んだ。
しかし、ノルウェーンが喉の奥から低く唸り声を上げると、それだけでドアの向こうの何者かも引き下がった。そう、間違いなく彼のアルファは「発情期(ヒート)」の真っ只中にあり、それが妊娠によるホルモンバランスの乱れと合わさって、この部屋はとてつもない熱気に包まれていた。
二人のフェロモンが混じり合い、室内を芳醇な香りで満たしていく。互いの身体の密着を感じるだけで、二人とも恍惚とした気分にならずにはいられない。アルファの牙が、パートナーの白く滑らかな肌をかすめるたびに、それが「これから何が起こるか」を告げる、抗いがたい約束のように感じられた。
年下のオメガの手は、壁に押し付けられ、逃げ場を失っている。
アルティはどれほど抗おうとしても、喘ぎ声を止めることができない。ノルウェーンの触れ方はあまりにも巧みで、彼はただ溶けていくしかなかった。
激しい訓練や公演の後の疲弊しきった身体に、ノルウェーンの深く、的確な突き上げと、降り注ぐキスの雨が心地よく染み渡る。赤子のためにストレスを感じないように努めていたが、こうして解放されることが、何よりも救いだった。
ノルウェーンの手に自身の果てた液を塗りつけ、アルファの熱い種をその身に注ぎ込まれた瞬間、低い喘ぎ声が漏れる。アルティは疲れ果て、白磁のような額を壁に預けて荒い息を吐いた。
精液が真っ白な太ももを伝い、床に滴り落ちる。ノルウェーンはパートナーの赤い唇が震えているのを見逃さなかった。何を求めているかなど、火を見るよりも明らかだ。彼は急かすことなく、小さなキスを重ねていき、やがてベッドの中央へと彼を連れ込んだ。そして、眠たげな小柄な恋人の、濡れそぼった乳首を弄り始めた。
「い、嫌っ!」
アルティは突然、頬を先ほどよりも真っ赤に染めて、アルファから身を離そうとした。
「だめ……まだダメだよ。外にはたくさんの人がいるんだ。今、休んでるんだって言い訳しても、それだけじゃ……」
この言い訳は、彼が本音を隠すためのものだった。アルティにとって、アルファに力強く、あるいは甘く抱かれている最中に、その深い瞳を真っ直ぐに見つめられるのは、とてつもなく恥ずかしいことだった。たとえ結ばれて数年が経っていても、誰かに見られるかもしれないという状況下では、なおさらだ。
アルファは耳をピクリと動かし、周囲を警戒する。アルティには、その姿がまるで子犬のように見えた。
「抵抗するな、オメガ」
アルファの未だ硬く勃起したあそこが、再び彼の内部へと侵入してくる。壁を広げるようなその感覚に、アルティは甘く声を上げた。深く、あまりに深く、最初の突き上げだけで彼はすべてを忘れてしまう。本当に、心地よいのだ。
「お前は本当にいいオメガだ。……俺のものとして、最高だよ」
アルティは瞳を潤ませながら頷く。この発情した男のせいで、彼はまた、全身が疼き始めていた。
ノルウェーンはパートナーの腰を支配し、指の跡が赤い斑点となって残るほど、容赦なくその肌を愛撫する。パートナーの肌があまりに白く輝いているものだから、それを自分の色で塗りつぶしたいという欲求と、ただ慈しみたいというジレンマに、彼は理性を揺さぶられていた。
クソ、どうにでもなれ。自分のものにしてやる。
アルティは彼の名を呼ぶことすらままならない。瞳は潤んで視界は霞み、ただ天井がぼんやりと揺れていることしか認識できない。シーツを力任せに掴み、アルファが彼の手足を肩に担ぎ上げ、子宮口という「スイートスポット」を容赦なく突くたびに、身体が跳ね上がる。
ノルウェーンは、腹部のあたりを小さく噛み、慈しむように舐め回しながら、未だ見ぬ我が子へ挨拶をするかのように、その場所を愛した。
絶頂に達し、アルティの力尽きたような表情を眺めると、ノルウェーンは少し悪戯っぽく笑った。そして彼を抱きかかえ、自身の胸の上に乗せて、その腕をしっかりと固定する。
「寝るなよ、愛しい人」
「え……?」
オメガの唇が驚きに開く。アルファが自身の骨盤を、オメガの赤く腫れた臀部に激しく打ち付けると、先ほどまでの絶頂と射精で緩みきった身体の奥深くまで、さらに深く入り込んできた。
ベッドはまさに戦場と化していた。シーツは乱れ、枕のほとんどは床に放り出され、木枠が壁や床にぶつかる音を響かせている。幸いにも、彼らの部屋は廊下の端にあるため、近くに他の部屋はなかったが、それでも上下階の「住人」たちを想うと、背筋が凍る思いだった。
アルファの「発情期」は、まさに最高潮を迎えようとしていた。ここまで来ると、この性悪で好色な獣は、もう言葉さえ交わさなくなるだろう。ただひたすらに、本能のままに唸り声を上げることしかできないのだから。
「ウ、ウィーン! そんなことしちゃ……っ、ああ! アルファ、赤ちゃんが! 赤ちゃんを忘れないで……っ!」
アルティの身体は突き上げられるたびに激しく震え、首を反らして叫ぶ。
「ザビエルさんが来ちゃうよ、ウィーン!」
アルティはめまいを感じていた。ノルウェーンに快楽の中枢を突かれる感覚だけでなく、部屋中に充満する膨大な量のフェロモンのせいだ。おそらく、このホテルのフロア中が、発情したアルファの匂いで満ちているに違いない。
「殺す気……? 死んじゃう、アルファ……っ。でも、すごく気持ちいい……」
甘い言葉の合間に、口角から糸を引く唾液がこぼれ落ちる。
アルファは、自身の狼の思考に支配され、盲目になっていた。ただ、このパートナーと再び結ばれ、それが妊娠していようがいまいが関係なく、全てを注ぎ込みたいという衝動だけが彼を突き動かしている。
アルティは、とっくの昔に伸ばしていた爪をアルファの胸に立てていた。相手が自分の中でさらに大きく膨らんでいくのを感じ、支えられているにもかかわらず、その脚は震えが止まらない。
「ノルウェーン……!」
アルファは力尽きた恋人を再びマットレスに押し倒し、涙で濡れた瞳と熱を帯びた頬にキスを落とした。パートナーの身体が痙攣し、口から支離滅裂な言葉が漏れている。
少なくとも、これで彼の狼は一時的に落ち着いた。発情期(ヒート)に伴う「結びつき(ノット)」の最初の一つを解放しただけだ。――まだ、あと二つも残っているというのに。
赤く染まった息も絶え絶えのオメガは、片腕で目を覆い、長い溜息を漏らした。ノルウェーンが自身の胸から溢れ出る母乳を厚かましく舐め取り、そのたびに突き上げの衝撃でマットレスが激しく揺れる。
「……それ、赤ちゃんのためのものだよ。この変態アルファ」
「建前だな。今はただ、俺のものだ」
ノルウェーンはアルティの腕を掴み、背中がマットレスに着くのを許さない。オメガの脚はアルファの腰に絡みついているが、それ以上に、触れ合うたびに先ほどよりも深く、熱く濡れそぼっていくのを感じる。
パートナーの唇が重なるたびに、アルティは甘く喘いだ。呼吸を整えるために口が離れると、すぐに「もっと」と求めずにはいられない。
オメガが頂点に達し、その名を叫んだ瞬間、二人の腹の上で熱いものが弾けた。妊娠による感度の高まりは異常だ。ほんの少し触れられただけで、抗う間もなく何度もイッてしまう。その事実に、アルティは苛立ちながらも、抗いがたい快楽に身を委ねていた。
ノルウェーンの手がオメガの腹部をなぞると、アルティは過敏な身体を弓なりに反らせた。
あの初めての夜を思い出す。鋭い牙と妖艶な眼差しを持つこの雄に、自分の初々しさが奪われた夜。マークが刻まれていると知った母が天を仰いで叫び、親戚中が大騒ぎになったあの時の恥ずかしさといったらなかった。
今度、新しい家族が増えると知ったら、またあの叫び声を聞くことになるのだろう。
「……ステージの上のお前、とんでもなく可愛かったよ」
黒髪のアルファが耳元で唸る。熱を帯びた手が、太ももをゆっくりと、命を奪うような速度で這い上がる。
「その芳醇な匂いに……俺はすっかり酔わされていた」
アルティは、ノルウェーンの湿った舌が首筋を這う感触に、自分がいかに小さな存在かと思い知らされ、小さく声を漏らした。
「どうしてこんなに美しいオメガなんだ? ステージに一人でいても、俺たちといても、誰もがお前を目で追っていた。……その可愛い尻を振る姿なんて、言うまでもない」
ノルウェーンはオメガの臀部を揉みしだき、不規則なリズムで突き上げを再開する。パートナーが顔を赤らめ、快楽と懇願が入り混じった表情を見せるたびに、アルファの笑みは妖しく深まった。
「……お前の美しい身体を、こうして独占できるなんて、なんて祝福だろうな」
「あ……アルファ……っ」
アルティは下唇を強く噛み締め、濡れそぼった入り口とアルファの熱い楔が擦れるたびに、泣きそうな声を上げる。
「……目隠しをちゃんと付けられなくて、ステージで盲目になりかけたんだろう? ベイビー」
アルティは頷き、ノルウェーンの背中に爪を立ててしがみつく。
「目隠しを甘い唇で噛んでるお前、最高にセクシーだったぞ。……その直後に俺たちに謝ってたのもな」
先日の公演、目隠しをしてアルファとデュエットするはずが、用意が遅れて口にくわえて踊ることになったのだ。自分のミスを恥じていたが、観客にとっては最高に扇情的な演出だったらしい。ネット上では、既に彼を巡る卑猥な妄想が飛び交っていることだろう。
「あ、アルファッ!」
ノルウェーンが突き上げを強めると、アルティは声を上げて懇願した。耳元で囁かれる言葉が、オメガの理性を麻痺させていく。
アルティの身体の半分はベッドから浮き上がり、ノルウェーンに支えられている。片脚はシーツの中に、もう片脚は宙を舞う。アルファの楔が最深部を打ち抜くたびに、オメガは絶叫せずにはいられない。
満たされ、パートナーの精液が自身の身体から溢れ出し、先端を白濁させている光景を、アルティは潤んだ瞳でぼんやりと眺めていた。これで最後の「結びつき(ノット)」だ。既に、オメガの本能が目覚め、狼が顔を出している。
ノルウェーンは再び唇を舐め、じらして入り口を突き、中をかすめるように出し入れを繰り返す。全てを欲しがるオメガの抗議の膨れっ面に、アルファは笑った。
耳に噛みつき、ふさふさとした狼の尾を引っ張ると、オメガから最高に甘い喘ぎ声が漏れた。
全てを解き放つ最後の一突き。
それは、アルティにとって驚きの叫びを上げるほど深いものだった。
瞳は焦点が合わず、口元から糸を引く唾液がこぼれる。
この領域で最も求められるオメガは、今、完全に彼の手の中にあった。
「……好きか? ベイビー。気持ちいいか?」
「き、気持ち……いよぉ……っ」
涙混じりの声で、彼は喉を鳴らし、甘く喘ぐしかなかった。
「何時間もずっと、食いたくてたまらなかったんだ。……パンツの中で窮屈な俺のあそこが、どんなに痛かったか……公衆の面前でできないのが、どれだけ苦しかったか……」
アルティは頭を反らせ、再び声を上げた。ノルウェーンはさらに彼を追い詰めるように、身体のあちこちに小さな噛み跡を残していく。
「お前が可愛い衣装を着てるのを見るたび、誰が見ていようが関係なく、今すぐここで俺のものにしたかったんだ」
「アルファ……っ」
「受け入れろ、オメガ。……全部、俺だ」
アルティは背中を大きく反らせた。アルファの鋭い牙が、かつてのマークを再び刻み込み、裂いていく。彼は目眩に襲われながら、強烈な情動の波にただ溺れていった。
「深夜四時にポテトを食べるなんて、いくらなんでも遅すぎないか? もうすぐ朝だぞ、ベイビー」
アルティは鼻を小さく鳴らした。自分と赤ちゃんが空腹なら、目についたものなんて何でも食べる。彼はポテトを片手に、まるで武器のようにアルファへ突きつけた。
「朝の四時だろうが何だろうが知ったことか! ウィーン、僕らはお腹が空いてるんだ!」
「まだ『食べづわり』の月じゃないだろ。そういうの、始めないでくれよ」
アルファは呆れて首を振りながら、アルティの手からポテトを一本ひょいと盗み取った。
「それに、こんなの体に良くない」
「僕のポテトを返して!」
金髪のオメガは、大切な食べ物を取り返そうとアルファに飛びかかった。その勢いで、今夜二度目の眼鏡落下危機が訪れたが、結局力尽きて相手の露わな胸の上に倒れ込んだ。彼はふくれっ面で呟く。
「……ウィーン」
「なんだ?」
「明日の同僚たちのプレゼン、みんな変な目で見てくるかな……僕の歩き方、見たら……」
「歩き方を見れば、俺が自分の番と……俺の二人の大切な赤ちゃんに、たっぷり愛を注いだってことがバレるだけだ」
ノルウェーンはそう言って、恋人の柔らかな頬にキスを落とした。
「もしジロジロ見てくる奴がいたら……俺が誰のアルファか、思い知らせてやる」
「もう! ウィーンったら、ファンを怖がらせないでよ」
ノルウェーンはふと表情を和らげ、心からの笑みを浮かべた。
「ファンのみんなは大好きさ。……でも、お前たちほどじゃない」
そう言って、恥ずかしそうにしている金髪のオメガに軽く口づけをする。
「明日、もし行くなら……俺の隣に座るか?」
「うーん……もし僕にたっぷりの甘やかしをくれるならね。あと、ポテトも」
アルティは少し考えてから、瞳を大きく見開いた。
「『もし』行くならって、どういう意味?」
黒髪の男の悪戯な瞳に、アルティは嫌な予感を覚えた。
「ウィーン?」
[……俺たちの小さな家族に、もう一度濃厚な『マッサージ』をしてほしいか?]
彼がその邪悪な企みを口にすると、アルティの頬は怒りで、あるいは照れで真っ赤に染まった。
「だ、だめ! 待って、やめて!」
パートナーが自分に覆いかぶさってきたのを見て、アルティは悲鳴を上げた。
アルティは、妊娠していても、自分のアルファに抱かれることが大好きだった。どれだけ言葉で拒絶しようとしても、叫んで抗おうとしても、その事実は変わらないのだから。








